スウェーデン・ジャズ・ライブ事情



北欧系ジャズとは無縁の当サイトだが、今回北欧ジャズの本場とも言えるスウェーデンを代表する2軒のライブ・ハウスを巡る機会に恵まれたので、レポートしてみようと思う。

ストックホルム

Lars Jansson Trio
Fasching, Stockholm, 2006.10.14(Sat)
http://www.fasching.se/

Lars Jansson (piano)
Christian Spering(bass)
Anders Kjellberg(drums)

ご存知の通りストックホルムはスウェーデン最大の都市で、空港から市街地へはアーランダ・エキスプレスというノンストップの直通列車が走っていて20分でストックホルム中央駅に入ることができる。

ストックホルムでトップクラスのジャズ・クラブ、「Fasching」はその中央駅から歩いて5分程度の繁華街の中にある。劇場の隣で看板も大きくでていてわかりやすいし、夜になっても治安のよさそうな街である。ウェブ・サイトで場所をチェックしていったのだが、サイトはスウェーデン語のみで予約を取っているのかどうかわからなかったが、直接いってみると難なく入ることができた。
入り口でチャージを払うシステムで店では英語が通じた。この国ではほとんどの人が英語を喋れるようだ。チャージは地元のアーティストということで150クローネ(約2400円)。外国のアーティストの場合はもっと高いようだ。
店は横長のステージの前にほんの2列ほどのテーブルが並んでいるのと、2階のバルコニー席があり、テーブル席のキャパは150人程度といったところだろうか。後はバーと立見席になる。

この日の出演は地元スウェーデンのピアニストで、度々来日もしているラーシュ・ヤンソンのトリオで、開演時間になることにはテーブル席は完全に満席で10名程度の立見もでているような入りだった。
客層は10代?と見えるような少年達からかなり年配の御老人まで男女交えて非常に幅広い客層で、スウェーデンのジャズ・ファン層の広さが感じられた。

席は先着順で好きな席に適当に座っていくというスタイルだった。テーブル席が一杯になると見やすそうな壁際に勝手に椅子を持ってくる人がいたり、バルコニーに上る階段に座り込む人たちがいたりと結構自由な感じだった。

実はラーシュ・ヤンソンの音は全く初めて聴いたのだが、意外なほどわかり易く、爽やかななサウンドだった。
アコースティック・ピアノ・トリオというフォーマットながらスタンダードをやらずにオリジナルを中心に演奏していき、小難しいことは敢えてやらずに、あくまでもメロディー・ラインを大切にした上で、綺麗なヴォイシングをしていくというスタイルだった。

ちょっと無理な表現かもしれないが、4ビート版スムース・ジャズといったようなサウンドに聴こえた。
約30分の休憩を挟んで入替えなしの2ステージ構成だったが、初めて聴く曲がほとんどだったにも関わらず素直に入っていくことができ楽しむことができた。

ヨーテボリ

白い車の右奥がNefertiti入口
Mike Stern Band
Nefertiti, Goteborg, 2006.10.15(Sun)
http://www.nefertiti.se/

Mike Stern (guitar)
Bob Franceschini (sax)
Anthony Jackson (bass)
Lionel Cordew (drums)

ヨーテボリはスウェーデン第2の都市である。Goteborgというスペルのため英語ではゴートバーグと発音するが、現地発音ではヨーテボリになるのでややこしい。
地理的にはストックホルムとはスカンジナビア半島の反対側の西海岸にあり、飛行機で1時間、特急列車で約3時間の距離にある。 第2の都市と言っても、ストックホルムに比べるとかなりこじんまりした街で、中央駅近くの目抜き通りも歩いているとすぐに終わってしまう。
VOLVOの本拠地としても知られる街だけに、街を走っている車の3台に1台くらいはVOLVOだった。

この街No.1のジャズ・クラブ(ひょっとしたら唯一?)の「Nefertiti」は中央駅から歩いて15−20分程度の市街地のはずれ近いところにある。
この店の場所は極めてわかりにくい。なんといっても表に店の看板らしいものが何もでていないのだ。入っている建物は地元の大学の校舎に使われているような看板がでているのだが、そのビルの隅のほうの通用口のようなドアが店の入り口になっている。
開場前の行列ができていたので、そこだとわかったが、そうでなければ全くわからないような店だ。
この店もウェブ・サイトがあるが、スウェーデン語のみの表記だ。それでも出演者や日程程度はわかるし、地図も掲載されている。
予約がウェブ・サイトでできるようになっていて、スウェーデン語がわからないままに山勘でクリックしていったら無事予約をすることができた。空いているテーブルが表記されていてそれをクリックして座席指定ができる形式で、Eメール・アドレス、電話番号、名前を入力するようになっているが、クレジット・カード番号は要求されない。予約のキャンセルも確認のEメールについているリンクを使うとできるようになっているようだ。
「BOKA」というのが予約という意味らしい。

この日の出演はマイク・スターン・バンドで、入り口でチャージ250クローネ(約4000円)を支払って店内に入った。予約を入れていたのでテーブルに自分の名前を貼り付けてくれていた。
この店も横長になっていて、ステージ前にはテーブルが3列しか並んでおらず、テーブル席のキャパは120人程度。この日はテーブルは予約で完全ソールドアウトだったようで、立ち見も数十人でており、狭い店の中が立錐の余地もないくらいの超満員になっていた。 同じテーブルで相席になった地元の人によるとこの店は、2年前にはマーカス・ミラーも出演したし、過去、ビリー・コブハムやジョー・ザヴィヌルも出演しており、今月はビル・ブラッフォードも出演予定になっているとのことだった。

1ステージ目から5曲約1時間20分にも及ぶ演奏で、ニューアルバム「Who Let The Cats Out」からの曲を中心に演奏された。
マイク・スターン・バンドは過去何回か見ているのだが、この日のステージはいつもよりも勢いがあるように感じられた。
何と言っても印象的だったのはアンソニー・ジャクソンで、スピード感溢れる切れ味のよいラインや、ミュートやハーモニクスを交えたアイデア豊富なフレーズは素晴らしかった。一時期体調を崩して以来、ここ何年からは往年の切れ味を失ったように感じられることが多く、そこそこのレベルの演奏はしても、何かが足りないと感じていたのだが、この日の演奏はようやく完全復活を遂げたと感じさせるものがあった。

ライブは入替えなしの2ステージ構成で、アンコールをあわせると2時間半を超えるような演奏だったが、メカニカルなキメキメのフレーズをビシバシとユニゾンで決めながらも、ラフな感覚を残したパワフルな演奏で疾走していくサウンドを聞いているとあっという間に終わったと感じられるほどだった。
このバンドは今一番カッコいいフュージョン・バンドのひとつと言ってもいいだろう。

終演後、マイク・スターンに聞いたところによると2007年3月に来日予定で、そのときはサックスを入れない替わりに小曽根真がオルガンを弾くスペシャル・バンドになる予定で、クリス・ミン・ドーキーがベースを弾く予定とのことだった。

余談になるが、スウェーデンでは寿司ブームのようで、ストックホルムでもヨーテボリでも街の至るところにファーストフード風の寿司屋があった。マクドナルドもかなり幅を利かせていて街のあちこちにあるのだが、そのマクドナルドを寿司屋の数は凌駕していた。味のほうは試してみなかったので、どうなのかわからないが、写真のように「SUSHI COFFEE」といった訳のわからない寿司屋まであった。 (橋 雅人)






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