Rippingtons in Illinois Live Report


Braden Auditorium in Normal, Illinois 2002.06.28

The Rippingtons
(http://www.rippingtons.com)
Russ Freeman(guitar)
Eric Marienthal(sax)
Kim Stone(bass)
Scott Breadman(perc)
Bill Heller(keys)
Dave Karasony(drums)

6月27日金曜日。インディアナ州のブルーミントンから、ライブが行われるイリノイ州南部の小さな町ノーマルに向かう。車では約3時間半の旅だ。あくまで平坦でまっすぐな道を順調に進むと、知らぬうちにイリノイ州に入り、そして自分のいる大学町ブルーミントンと雰囲気の似た町を発見・・・と思っていたらそこがノーマルだった。

ノーマルの町はアメリカ中西部特有のだだっ広く平坦な町で、その中心にイリノイ州立大学を有する。俗に言う「大学町」で、町の住人は大学関係者や学生が多いようだ。中西部特有ののんびりした雰囲気と、学生を中心とした若者の活気で、妙なコントラストを感じさせる町とも言えるかもしれない。今回のライブは、そうした溌剌としていながら、どこかのんびりした中西部郊外の小さな町にある大学の講堂(ブレイデン・オーディトリアム)で行われた。「講堂」というとなかなか重厚なイメージだが、夏学期中ということからか廻りの道路は工事だらけ。「趣深い歴史的な講堂」とはほど遠い、日本的に言うならばどことなく地方の「○×公会堂」に似た雰囲気も感じられた。

さて、今回のライブ、心待ちにしていたとはいえ、一つ気になることがあった。それは事前のチケット販売で、一番盛り上がるであろう1階席(オーケストラレベル)と2階席の前部(メザニン前列)のチケットが1枚も売り出されなかったことだ。チケットマスターで発売が始まった時刻直後にアクセスしても、目指す1階席は全く売られておらず、仕方なく我々は2階席後部(メザニン後列)を購入していたのである。これは大学関係の施設を使う際によくあるのだが、大抵その大学の学生や町の人が、年間を通して大学主催のイベント・プログラムの会員になっていたりして、どのイベントでもそういった会員が優先してチケットを購入できる。今回の会場も、イリノイ州立大学の講堂ということで、そういった理由があったのでは、と裏事情を読んだつもりだったが・・・実は全く違っていた。この日、高校生・大学生による全米マーチングバンド大会がノーマルの町で行われており、その大会に出場する学生達がタダで見られるプログラムとして、このRippingtonsのライブが組み込まれていたのだ。普段のライブでのRippingtonsのファン層は、20代後半から30代、40代のカップルが圧倒的に多い。それを考えると、今回はまったく「異質な」観客に向けてのライブとなるわけだ。その「異質な」観客--タダで入場した学生達--が全1階席と2階席前列を占め、我々のように「好きだから見たい!」とチケットを購入した人達は2階席の後列へ。予想通り、席についてから、あちこちからから「どうして発売後30分で電話して、ここなのかしら?」と不満の声が聞かれた。せっかくのライブだが、長年のファンにはちょっと「?」のこんな状況から始まった。

<Set List>
1. St. Tropez
2. Morocco
3. Summer Lovers
4. Drive
5. Oceansong
6. Avenida Del Mar
7. One Day in Venice
8. South Beach Mambo
9. Caribbean Breeze
10. Black Diamond
11. Stories of the Painted Desert
12. Angelfire
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13. Tourist in Paradise
14. Purple Haze
15. Fire
Kim Stone & Russ Freeman

客席が暗くなり、ぼんやりと明るいステージに人影が現れた。メンバーの登場だ:Russ Freeman(ラス・フリーマン)(g)、Eric Marienthal(エリック・マリエンサル)(sax)、Kim Stone(キム・ストーン)(b)、Scott Breadman(スコット・ブレッドマン)(per)、Bill Heller(ビル・へラー)(keys) 、Dave Karasony(デイヴ・カラソニー)(ds)の6人がステージに散らばり、それぞれ楽器を準備する。このRippingtons、このところメンバー交代が激しく、13年前の初来日時と比較するとRuss以外は全員新メンバーとなっている。その来日時にはいなかったが、唯一Kim StoneがRussを長年支える女房役と言えるだろう。中でもサックスは、メンバーが変わる毎にファンの間でかなり話題になるポジションだが、不思議とEric Marienthalに対するファンの声は非常に温かい。それは、もちろん言うまでもなく彼の演奏技術の素晴らしさがあるからだが、それ以上に彼の人柄もあるのかもしれない。客席から手を振る学生達には笑顔で答える気さくな彼は、演奏後はファンとの会話を楽しむ、周知の通り日本でもかなりの人気者だ。

さて、明るくなったステージでまず始まったのは、なんと「Weekend in Monaco」から珍しく「St. Tropez」。力強く響くベースラインから始まり、Ericのサックスがメロディアスなテーマを歌い上げ、そして転調。Russのギターがハードな音を響かせ、まさに会場を「Rock(ロック)する」といった状態だ。10代〜20代前半の学生達は全員立ち上がって大騒ぎ。(気持ちは分かる・・・え〜い、私も立ってしまえ〜といきたいところだが、なぜか妙に冷静な2階席後部。みんなさりげなく、足や首でリズムをとり、思い思いにノッているといった感じだ。ここは踊りだしたい気持ちをぐっとこらえて、このまま座って見ることに・・・。)この曲は本当に久しぶりの演奏だったと思う。アルバムのタイトル曲「Weekend in Monaco」は過去のライブで何度か演奏されたのだが、「St. Tropez」はその影に隠れた「名曲」といった感じだった。しかしよく聴き直して見れば、この気持ちのいい、かっこいい曲調は、まさにRippingtonsらしい作品。今まで積極的に演奏されていなかったのが、ちょっと不思議なくらいかもしれない。

続いて懐かしいアルバム「Kilimanjaro」からの1曲、「Morocco」。この曲はRippingtonsのビデオ「Live in L.A.」の最後、クレジットが流れる部分で使われている曲なので、どうも自分は「ショーの終わり」のイメージを持ってしまっている。しかし、この曲こそ、1989年来日時にしっかり演奏していた曲。当時の演奏曲目の中でも、途中のRussのギター・ソロが最も冴えている曲だった。そして、2002年の今、あらためて彼らの演奏を聴いてみても、いまだに「新鮮さ」を感じられるというのはすごいことだと思う。Russのギター・ソロも相変わらずロックしていた。

ここでRussが軽く挨拶。「この中で、僕達のバンドの曲を前に一度も聴いたことがない人?」「は〜い!」・・・なんと、お行儀のいい学生達の大多数が思い切り手を挙げる。「じゃあ、ちょっとでも聴いたことがある人?」「は〜い!」・・・明らかにかなりの少数派。それでもRussは笑いながら話を続ける。「じゃあみんな、僕達の音楽をぜひ楽しんでいって!」

続いてアルバム「Topaz」から「Summer Lovers」。この曲の紹介でRussが「・・・Lovers」と発音した途端、会場から「ヒュ〜!」というなんとも怪しげな声が・・・。いかにも学生らしい健全(?)な反応だ。そして曲が始まった。ご存知、出だしからドライブ感のある印象的な曲だ。オクターブ奏法に続くテンポの速いRussのソロは、まるで流れるような滑らかさで、そこにEricのサックスがさりげなく色を添える。1階席を見下ろすと、学生達は、みんな立ち上がって踊りまくっていた。野外のジャズフェスティバル以外でこんな場面を見るのもなんとも不思議な感じだ。

Russ Freeman
Rippingtonsの創始者でありリーダーでもある。ギター以外にキーボードをこなし、現在ではコンピュータープログラムもこなす多才な人物。テネシー州ナッシュビル出身。
マイクを持ったRussが、嬉しそうに話を始める。「8月にソロアルバム「Drive」を発売するんだけれど、ここで初めてアルバムから1曲演ろうと思うんだ。じゃあタイトル曲で「Drive」。」。「おおぉ〜!」とここで急に騒がしくなったのがもちろん2階席後部。長年のファンが多かったため、8月発売予定のRussのソロアルバムについては「いわずもがな」の心境だ。そしていよいよ曲が始まった。

このRussのソロアルバム「Drive」だが、彼としてはいろいろと葛藤があったようだ。一番の悩みはやはり「いかにして、'Rippingtons'ではなくて'Russ Freeman'の音を作るか」ということだろう。彼自身、レコーディングの最中には「どうしても音が'Rippingtons'になっちゃうんだ・・・。」とこぼしていたから、本人の中でもどう音楽的に区別をつけるべきかかなり迷ったようだ。(そもそも音楽的に分ける必要があるのか、という根本的な疑問もあるが、「ソロアルバム」と銘打った段階で、やはりある程度の音の違いは期待されて当然のように思える。)このあたりは、ファンならずとも興味深いところである。出来上がったアルバムについては「すごくいいのが出来たよ。」と彼自身が大満足のようだ。その出来栄え、じっくり聴かせてもらおう。

さて、初めて演奏された「Drive」だが、自分の印象ではあきらかにRuss本人の音楽的主張が強く全面に押し出されていたと思う。つまり、我々がいつも楽しんでいる「音楽的な旅を続けるJazz Cat達」--Rippingtons--の音楽ではなくて、ギタリストとしてのRuss Freemanの音楽になっているのだ。ドライブ感のあるメロディ、ノリのいいリズム、そして気持ちのいい転調は、明らかにRippingtonsと共通するもの。しかし、それ以上に、Russ自身のギターが情緒豊かに自己主張しており、その部分のパワフルさではRippingtonsの曲をはるかに上回る。それは単純にソロの長さなどではなく、Russのより自由な即興を可能にする、空間を残したメロディとでも言うか。同時に、Russの演奏スタイルの違いとも言えるかもしれない。Rippingtonsでの演奏より、はるかにリラックスした表情でインプロバイズしている印象のRussの演奏スタイルは、まさに「Rippingtonsのバンドのリーダー」から「1人のギタリスト」へと切り替わっている証拠ではないだろうか。1度しか聴いていないが、聴き終わった後「もう一度!」と思わずにはいられない本当にいい曲だった。あらためて彼の音楽的才能の豊かさと、今のコンテンポラリー・ジャズ・シーンでの確固たる地位に納得させられたのだが・・・「本当か?」と疑問を持った方、ぜひ8月13日発売のソロアルバム「Drive」を視聴していただきたい。私としては、これを機にまた日本でもファンを増やして欲しいところだ。

気持ちのよい曲の後は、さらに美しいメロディが印象的な「Oceansong」。この曲も「Kilimanjaro」からの1曲だ。Russのアコースティックな音が気品さえ感じるような洗練されたメロディを奏でる。途中からEricのサックスが加わり、転調を交えてアップテンポになっていく。最後の部分--これはアルバムでも最も聞き応えのある部分だと思うが--ライブでもサックスが、ロマンチックでもありノスタルジックでもあるメロディを切々と歌い上げ、聴き応えは充分だ。この時1階席の学生達は、手を上げメロディに合わせてウェーブを作っており、端の方には、ライトを振っている人も見えた。このあたり、ちょっと苦笑しつつも、こちらも何となく嬉しくなって見ていた。

そして1枚前のアルバム「Life in the Tropics」からの「Avenida Del Mar」。今回はかなりアップテンポでの演奏となり、Russのギター・ソロは、かなり見応え、聴き応えがあった。

Bill Heller
ニューヨーク州ロングアイランド出身のひょうきん者。大学時代は音楽を専攻し、そこからスタジオミュージシャンの道に進んだ。Rippingtonsとは「Topaz」からの付き合いだ。
ところでメンバーの中で一番地味な印象なのが、この曲ではリズミックな演奏が印象的だったキーボードかもしれない。この、どちらかというと内助の功的役割が多いキーボードを演奏しているのがBill Heller。さりげなく各曲にソロを織り交ぜ、演奏途中デジカメ片手にステージの真ん中に収まるあたりは、どことなく落ち着きを払った「主」のイメージでもある・・・が、これは大変な誤解。彼は、間違いなくバンド一番のひょうきん者、最も親しみ易い人物と言えよう。ライブなどで会うチャンスのある人は、ぜひ気軽に話しかけてみて欲しい。もちろん人柄だけでなく、自分の音を押し付けない、さりげないがしかし聴かせるところはしっかりと持った演奏スタイルにも非常に好感が持てる。キーボード好きの自分としては、彼のソロをゆっくりと聴いてみたい気になった。

Eric Marienthal
カリフォルニア州サクラメント出身。バークリー音楽院に学んだ筋金入りのジャズ・サックスプレイヤーだ。Chick Corea Elektric Bandでの活躍はあまりにも有名。現在は自身のバンドでも積極的にライブを行っている。
ここでなんとサックスのEricのソロアルバムから1曲、「One Day In Venice」。Russの「この曲では、ハンサムでかっこいいサックスプレイヤー、Eric Marienthalをフィーチャーしてるんだ!」という、いつもと違った、ある意味「気の利いた」紹介に、会場の女子学生は大喜び。このあたりの反応は、どこの国でも同じようだ。逆にこの紹介を聞いてちょっと照れ笑いをしたのが2階席後部。確かにEricはハンサムだしかっこいいが、あらたまってそう紹介されると長年のファンとしてはなんだか照れ臭くなるものだ。

Eric Marienthalの最新アルバム「Turn Up The Heat」は、RussのレコードレーベルPeak Recordからの発売となっており、Russ自身も曲を提供している。このアルバム、今までのEricのアルバムの中で、最もスムースジャズ寄りに感じられるアルバムに聴こえる。というのも、ほとんどの曲で、彼のサックスは、どちらかというと「張り」を抑えた「滑らかで軽い」音になっており、何ともなしに「もうちょっとこぶしが欲しい!」と感じるファンもいるかもしれないからだ。しかしライブではまったく別。彼独特のリフがそこここに聴かれ、そして問題の音は非常に力強く骨のあるものに一変する。一見スムースジャズに聴こえるサックスだが、彼のライブでのソロは間違いなくそれ以上の要素を充分に楽しめるものになっているのだ。

そして「Life In The Tropics」からの2曲目、「South Beach Mambo」。この曲はライブアルバム「Live Across America」にも収められた曲だ。ライブでは、EricのサックスとRussのギターが独特のハーモニーでメロディを奏でる。もちろん、このトロピカルなリズムで学生達は大はしゃぎだった。

同アルバムからの3曲目が「Caribbean Breeze」。エキゾチックだがどこか切ないイメージのメロディをRussのギター丁寧に歌い上げる。

そして懐かしい「Black Diamond」。印象的なベースラインとドラムのリズムから始まるこの曲で、今度は2階席後部が大はしゃぎだ。アルバムでの、どちらかというと人工的な音とは異なり、ライブではかなり迫力がある。ここにアルバムとは違ってEricのサックスが加わるわけで、壮大なイメージのこの曲はさらに密度の濃い「分厚い」音へと変わっていった。Russのギター・ソロとKimのベース・ソロが非常に印象的だった。

Dave Karasony
南カリフォルニア出身。ドラマーの父を持ち、早くから音楽に興味を持つ。Dave KozからPat Benetarまで幅広い音楽をこなせる器用なドラマーだ。
Scott Breadman
ミズーリ州セントルイス出身の謎のパーカッショニスト。だが実はRippingtonsのデビュー当時からサブ・パーカッショニストとしてレコーディングに参加していたベテランだ。
「この曲はずいぶん演ってなかったんだけど、久しぶりにライブで演ることにしたよ。」という言葉で始まったのが、「Topaz」からの「Stories of the Painted Desert」。確かに、この曲もどちらかというと地味なので、ライブで聴いたことはなかったが、あとで彼らのウェブサイトを覗いてみると、Q&Aセクションに「ぜひ演って欲しい!」ということでこの曲をあげているファンがいた。もしかしたらRussは、このことから「演ってみようか!」と思ったのかもしれない。このあたりの、ファンとの距離の近さも、彼らの魅力の一つと言えよう。そういえば、こうしたファンとの身近なコミュニケーションを支えるRippingtonsの公式サイトが、実はRuss本人によって管理されているという事実は意外と知られていないかもしれない。それまでのサイト管理会社から切り替えたのは今年3月頃だったと思うが、その時は1日16時間以上もパソコンに向かってJavascriptを勉強したとか。今でも、「みんながデザインについてどう思ってるかすごく気になるから、どんどん意見を言って欲しいんだ。」というあたり、彼のファンとの接点を重んじる姿勢がよく表れていると思う。さて、このファン待望の曲「Stories of The Painted Desert」は、出だしのフレーズが耳に残る印象的な曲だ。メロディは静かに始まるが、次第にボルテージが上がり、そしてRippingtons独特の音楽的展開へと移っていく。

そして「Black Diamond」からの2曲目、「Angelfire」。フラメンコ調で始まるこの曲、なんといっても速いリズムに乗ったRussのメロディアスなギターが印象的だ。しかし、この曲の見所はなんといってもドラムのDaveとパーカッションのScottのソロ合戦だろう。アルバムでもドラムとパーカッションがかなりフィーチャーされているが、ライブではそれがさらにパワーアップする。そして、このドラムとパーカッションのソロ合戦は、ここ最近のライブでは定番になりつつあるようだ。着実にリズムを刻むDave、そのインプロビゼーションは非常にパワフルだ。それに相対するのがベテランのScott。デビュー当時のパーカッショニスト、Steve Reid(スティーブ・リード)のような派手さはないが、渋くきっちり決めるといった印象で、どちらかというと前パーカッショニストのRamon Yslas(ラモーン・イズラス)に似た、独創的でじっくりと聴かせるタイプと言えるだろう。そして、中でもハイライトはScottの「フライパン」でのインプロビゼーション。手馴れた手つきでフライパンを扱い、驚くほどバラエティに富んだ音を作り出す。この勢いでサニーサイドアップ(目玉焼き)でも作っているとしたら、相当腕の立つ料理人だろうが、その辺りはいまだ未確認。次回のライブでは、知的かつ音楽的な質問に加えてぜひこのことも聞いてみよう。

・・・といったところで、「みんなありがとう!」とメンバーは退場。以前ご報告したニューポートビーチ・ジャズフェスティバルの時と比べると格段に曲数は多いが、でもやはり「もっともっと聴きたい」というのがファンの本音だ。学生達の怒号のような歓声に2階席後部の我々長年のファンの拍手と歓声が加わり、ほどなくメンバーが再登場!そこで始まったのが、もちろんこの曲「Tourist In Paradise」

このパターンは本当に長年変わっていない。Russ自身もあまり変える意志がないのかもしれない。Rippingtonsがブレイクするきっかけとなった同名のアルバムのまさにテーマ曲であり、その後のRuss自身の人生を大きく変えることになった象徴的な曲ともいえる。ギターにサックスにドラムにキーボードに、そしてパーカッションがはじけるような勢いで会場に響き渡り、観客は1階席も2階席も大喜びだ。ここで光ったのが、今回「ハンサムでかっこいい」Ericのソロだ。力強い高音に骨のあるリフ、ジャズなのだがロックする熱いソロが続く。そしてRussのギターも、ロックグループのヴォーカリストがシャウトしているかのようなパワフルな音を響かせる。このあたり、Rippingtonsを単なる「スムースジャズのバンド」にカテゴライズできない所以でもある。

Kim Stone
Spyro Gyraでの活躍は有名だが、その後Rippingtonとなって現在12年目になる。同時に自身のソロアルバムもきっちり作る職人的ベーシストだ。
続いて恒例、Kimのヴォーカルで「Purple Haze」へ。この段階で、1階席は大変な騒ぎになっている。本当に全員が立ち上がり、ステージ前に押し寄せている状態。とにかく学生達のちょっと大袈裟にも見えるこの反応は、若干冷静な2階席からみるとまさに「素直な反応」であり、うらやましいくらいだ。ここでちょっと意外なことだが、Kimは実は非常にいい声をしている。会話の時は、柔らかい丸みを帯びた静かで穏やかな声なのだが、ひとたびヴォーカリストとして歌い始めると、その声は瞬時に「伸びやかで、力まずとも自然に響き渡る力強い声」に変化する。実はヴォーカルの訓練は一度も受けたことがないらしいが、歌うのは以前から好きなのだそうだ。そして意外や意外、実はドラムもできるそうで、地元のクラブでギグをやったこともあるらしい。こういう話を聞くと、ミュージシャンの多芸多才ぶりに思わず感心してしまう。 そして締めは「Fire」。このあたりで、もう会場はロックコンサートの様相を呈している。ただ、ギター、サックス、ドラム、キーボード、パーカッションのそれぞれが、音・リズム・メロディをしっかりと固めており、Kimのヴォーカルと共に、そういう彼らのパフォーマンスも楽しめるあたりが「やっぱりジャズだ」と思わされる部分かもしれない。そしてライブは終了。2階席の人々の間にも満足そうな吐息が漏れる。ライブの後、しばらく講堂には観客の拍手と歓声が響き渡っていた。オーディオエンジニアのNickが疲れた様子でポツリ。「観客の歓声がうるさくて、音の調整がすごく難しかったよ。あ〜、近年稀にみる失敗かもしれない。」。何をおっしゃるやら。彼の言う「近年稀に見る失敗」が、近年稀に見る大興奮の観客と共に近年稀に見る最高の盛り上がりを演出してくれたではないか。観客とバンドの起こした科学反応は、彼の演出があったからこそだと私は確信している。とにかく、ものすごく熱い2時間はあっという間に終わった。

今回のライブは、本当に異常な盛り上がりだったと思う。学生達は最初の1曲目から立ち上がり、ライブの間中ほとんど座らずじまいだった。踊る女子学生、口笛を吹く男子学生、黄色い歓声に大きな掛け声。単に騒ぎたい学生も多かったかもしれないが、それ以上に、いい音楽に触れた時の喜びと感動を素直に表現する彼らが、なんともほほえましく思えた。ライブの後のサイン会場では、多くの学生がRippingtonsのCDブースに殺到、山積みされていた「Live Across America」はあっという間になくなった。同時に、Ericの最新作「Turn Up The Heat」も飛ぶように売れて行き、その後にはサインを求める行列だけが残っていた。何はともあれ、Rippington(メンバー個人を示す場合、Russは単数形を使っている)の面々に「本当にお疲れ様」と伝えたい。

日本ではいまだブレイク待ちといった感があるこのRippingtonsだが、地元アメリカでは間違いなく今のコンテンポラリージャズ界で1、2を争う人気バンドだ。今年初めには、スムースジャズのアーティストのためのオアシス・アウォードで最優秀バンド賞を受賞し、まさに名実共にトップを走っていると言える。そんなRippingtonsだが、面白いことにリーダーであるRuss Freemanの作り出す音楽の傾向はデビュー当時から15年以上ほとんど変わっていない・・・が、それは「相変わらず似たような音楽」を作っているという意味ではない。もともと彼が生み出す音楽が想像以上に幅広い様々な音楽的要素を有しており、彼はその尽きることのない材料に器用に味付けし、そして驚くほどバラエティに富んだ「料理」を作り出しているということなのだ。Russ曰く、今年9月にはあらたに「厨房」での「調理」が始まる予定だと言う。その前の8月には彼のソロアルバムも発売されるわけで、まさに「ノッっている」証拠と言えるだろう。Rippingtonsのアメリカでのさらなる快進撃はまず間違いない。これが少しでも日本に向いてくれれば・・・と密かに願うのは私だけではないはずだ。(まい)



ラス・フリーマン インタビュー

Photography by Bill Heller and まい
Reported by まい
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